【見逃しシネマ】「世界一美しい本を作る男」(原題:How to make a book with Steidl)

映画『世界一美しい本を作る男 ~シュタイデルとの旅~』(2010年  ドイツ)

映画の公式サイトには、著名人のコメントが添えられることが多い。この映画にもそれはあって、そこには写真や映像、出版に携わる人物の名前がずらりと並んでいる。こんなにバランスの悪い(いや、専門性の高い)ラインナップは初めて見たので、少し驚いた。
しかし、万人受けすることがなくても満足のいくものを作るというこのスタンスこそが、本編に通ずる精神のようにも感じられる。

邦題にある、美しいという言葉。美しい本とは、いったいどういう本なのだろう。ドイツの小さな出版社、シュタイデル社を経営するゲルハルト・シュタイデルは、世界中を飛び回って打ち合わせをしている。ニューヨーク、バンクーバー、カタール、パリ……と、スーツケースに見本を詰め込んで各国のアーティストの自宅へと赴く様子を、映像は淡々と映し出していく。

シュタイデル社は、小さい出版社ながらも、印刷所を併設している。紙、インク、印刷手法はもちろん、色味の補正から表紙のデザインまで、納得のいくものに仕上げていく場面を、カメラは追う。ここに、シュタイデル社が有名写真家たちから信頼される出版社である理由の1つを見ることができる。

これは、世界各国での打ち合わせに始まり、編集、レイアウト、印刷、製本、出版まで、ディレクションだけでなく実務として関わっていくシュタイデルの独特な仕事の流儀に迫るドキュメンタリー映画だ。
シュタイデル社が手掛けるのは、写真集や画集などの書籍。これらを作るという作業は、製造でもあり、表現でもある。写真家自身が〝Happy”とならなければ、書籍という作品は生まれない。

美しい本が生まれる場面、それを見届けるようなドキュメンタリー。美しいという言葉は原題にはないのだが、このタイトルにどうしても惹かれて観てしまったことを書き添えたい。

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映画『世界一美しい本を作る男 ~シュタイデルとの旅~』
監督:ゲレオン・ヴェツェル& ヨルグ・アドルフ
配給:テレビマンユニオン
http://steidl-movie.com/index.html
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