もたらされ、はぐくまれた美。その1つ1つの物語 東京藝術大学美術館「相国寺展」

相国寺承天閣美術館開館40周年記念「相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史―」東京藝術大学美術館 2025.3.29~5.25

時代を超えて2人の絵師が手本とした「鳴鶴図」。
2016年に東京都美術館で開催された「若冲展」で、狩野探幽と伊藤若冲の作品と並んで展示されていたことも記憶に新しい中国の明時代初期の花鳥画家・ 文正の作品だ――。

「相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史―」では、この二幅対の「鳴鶴図」が文正の現存唯一の作品であり遺作であること、そして、相国寺六世・絶海中津が中国から帰国する際に請来したものだということを知る。

室町幕府三代将軍・足利義満が創建した相国寺は、鹿苑寺と慈照寺などを山外塔頭に持つ名刹。
当時最先端であった中国の文物を我が国にもたらしただけでなく、深淵なる日本の美を育んできた相国寺の存在。本展に触れると、相国寺の画僧であった如拙、周文のみならず、雪舟、狩野探幽、伊藤若冲、原在中、円山応挙など、日本の錚々たる芸術家がこの相国寺文化圏に息づいていたということにきっと驚くはずだ。

展示室に入ると国宝・重要文化財がずらり。
伝来する品に名刹ぶりが窺える本展だが、個人的には第三章「『隔蓂記』の時代―復興の世の文化」の木箱に入った鳳林承章の『隔蓂記』を前に今もありありと残る筆跡に釘付けになり、狩野探幽の「花鳥図衝立」の美しさに感嘆の声を漏らしては、何度もその前に戻った。
さらに第五章「未来へと育む相国寺の文化――“永存せよ”」で『探幽縮図画帖』を目にした際にはとても1日では受け止めきれないことを悟ったのだが、同章の長谷川等伯筆「萩芒図屏風」がまるで風に吹かれながらこの景色の中に佇んでいるような、清々しい気持ちにしてくれた。

これはとんでもない展覧会に来てしまったと感じたのは、きっと私だけではないだろう。心の声は「上野に住んで、何度も通いたい」と言っていたが、そうもいかないので図録を購入して、少しずつ理解を深めることにした。

名刹としての歴史、唐物の伝来、日本文化のなりたちへの貢献、東山御物や茶の湯、建築と調度品、各時代で活躍した絵師たちとのかかわりなど、来館者がさまざまな視点からそれぞれに鑑賞できるこの展覧会だが、その全体像を掴もうとするとかなりの体力を要するはず。

上野の爽やかな新緑に身を置きながら、時を超えて洗練された美に深く踏み入るような心地。日本の文化をはぐくんだ1つ1つの出来事と相国寺文化圏の存在感に圧倒される展覧会だ。

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東京藝術大学大学美術館
東京都台東区上野公園12-8
https://museum.geidai.ac.jp/
<公式サイト>
https://shokokuji.exhn.jp/

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