《連載》メトロポリタン美術館の日本美術❹ 鈴木其一〈朝顔図屏風〉

朝顔図屏風 Morning Glories
鈴木其一(すずききいつ)Suzuki Kiitsu Japanese
江戸時代 19世紀 early 19th century


朝顔図屏風(右隻)(上の写真は左隻)



江戸琳派らしい表現

金地に、紺の花と青みがかった緑の葉。
尾形光琳の〈燕子花図屏風〉とほぼ同じ色彩を用いた六曲一双の屏風が、メトロポリタン美術館に所蔵されている。

東京で「鈴木其一展」が開催された 2016年、 〈朝顔図屏風〉 は日本に里帰りした。実際に見る朝顔の花は、デフォルメされているにもかかわらず、花びらにはリアルな質感が感じられた。つぼみや裏側から見た花冠の可憐さに見るのは、細部まで端正な江戸琳派らしい表現だ。

琳派の継承者としての革新

鈴木其一が師事したのは、絵師であり俳人でもあった酒井抱一。琳派という体系を確立し、江戸琳派の祖として知られる人物だ。

抱一亡き後、鈴木其一は尾形光琳と俵屋宗達の代表作に挑戦することで彼らに私淑しつつ、琳派の新しい感覚を貪欲に表現していった。〈朝顔図屏風〉に描かれているのは、身分を問わず江戸庶民にも愛された朝顔。神でも古典文学でもないこの題材にも、伝統と革新を両方表現した其一の挑戦が見え隠れする。

少し離れて屏風の大画面を観ると、朝顔のつるは巧みに動き、浮遊しているように感じられる。
そして、左上と右側から靡くような構図が、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一によって描かれ受け継がれてきた〈風神雷神図屏風〉を彷彿させるのはおそらく偶然ではないはずだ。