生活の中の美に触れる。サントリー美術館の「日本美術の裏の裏」

リニューアル・オープン記念展Ⅱ「日本美術の裏の裏」2020.9.30~11.29【サントリー美術館】

円山応挙《青楓瀑布図》(江戸時代 1787)が迎えてくれる展覧会「日本美術の裏の裏」。軸が掛けられているのは床を模した空間だ。その明るさに導かれるようにまっすぐそこへと向かうと、清々しくも激しい応挙の水の表現に出会う。青楓のさわやかな緑と直線的に描かれた滝、水は落ちて岩に弾かれ波打つ。まるで水しぶきの音が聞こえてきそうな滝を前に、心がざわつくほどの涼しさを感じることだろう。

ふと横を見ると、展示室の仕切りは襖の形をしている。この空間づくりから、鑑賞者は日本美術作品の本来のあり方をダイナミックかつ現代的に体感していることを知る。軸は床に掛け、襖は広々とした空間を仕切り、屏風は蛇腹状に立てる。美術館で作品として鑑賞をしているとつい忘れてしまいそうなことが、日本美術を愉しむためには実に大事なことなのだ。

本展は、その作品がいかに精緻で美しいかとか、美術史の上での価値を詳しく解説するのではなく「美はそもそもどのように愉しまれたのか」を示し、あなたならどうする?と問いかけてくる。

狩野永納《春夏花鳥図屏風》六曲一双(江戸時代 17世紀)
狩野永納《春夏花鳥図屏風》(左隻 部分)


日本美術を鑑賞する際には、ポイントとなる視点がある。「空間をつくる」「小をめでる」「心でえがく」「景色をさがす」「和歌でわかる」「風景にはいる」の6章で構成された展示は、 “生活の中の美”という美術館の基本理念に根差したもの。全作品サントリー美術館所蔵だからこそできる、展示手法に独自性を感じさせる内容だ。

《かるかや》二帖(室町時代 16世紀)


「第3章 心でえがく」は室町時代の絵巻たった6点で構成された章でありながら、その作品の存在感がほかとは異なっている。《かるかや》(室町時代 16世紀)は説経「苅萱」の絵入本で、絵画化された説経として現存最古と推定されるという。高野山に入った父と後にたずねて来る息子。名乗ることのできない2人の関係と深い絆は、現代でもかわらずに人の心に響き、素朴な筆致ならではの絵入り本の魅力を感じさせる。

住空間をダイナミックに演出し、小さなものを愛で、やきものには景色を見るなど、古の人々の豊かな感性に触れる「日本美術の裏の裏」展。作品が撮影可能なのも楽しみの1つであり、肩ひじ張らずに日本美術を愉しめる。現代生活の中でももっと美を愉しめるはず――そんな実感を得るともに、自分が素敵だと思う美を見つけることができそうだ。

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サントリー美術館
東京都港区赤坂9-7-4
東京ミッドタウン ガレリア3階
https://www.suntory.co.jp/sma/
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