彼らの短い命の果てに、いまだ残る芸術がある。映画「エゴン・シーレ 死と乙女」

<2017年2月5日の投稿を再掲>

《死と乙女》のエピソードは、どこかで聞いたことがあった。そこに描かれているのは、深い悲しみと絶望の中にある恋人と死神。長くモデルであり恋人であったヴァリを捨て、妻にふさわしい中産階級の娘エディットと結婚したエゴン・シーレ。2人の別れを描いたとされるこの作品は、残酷なまでに交錯する死と生を感じさせるものだ。シーレと別れたヴァリは、その後、いつかシーレと一緒に暮らしたいと話したダルマチアの戦地へ従軍看護婦として行き、猩紅熱にかかって亡くなった。

衝撃的な作品を描き続け、28歳という若さで亡くなったエゴン・シーレ。年齢を重ねることのなかった彼の作品は、どこか自己愛とエリート意識を感じさせる才気走った印象があり、退廃的な題材にも個性の強さを感じさせる。そこには明るさよりは、暗さを感じていたのだが、それがすべてではなかったのかもしれない。

本作では、エゴン・シーレ役をオーストリア生まれのノア・サーベトラが演じ、ヴァリ役を同じくオーストリア生まれのヴァレリー・パハナーが演じている。恋人ヴァリをはじめ、妹ゲルティ、踊り子モア、妻エディット、その姉アデーレ…彼のモデルとなる女性たちは皆魅力的で、エゴン・シーレをそれぞれに愛している。作品の印象からは、映画の端正で美しい主人公と10代20代の若者たちのさわやかさまでも感じさせる描き方が意外でもあったが、そこにはこれまで知ることのなかったエゴン・シーレが確実に生きているようでもある。

画家が愛したのは、鏡映しにされるかのような作品だけだったのか…それとも。彼らの短い命の果てに、いまだ残る芸術がある。

******************

映画「エゴン・シーレ  死と乙女」