【見逃しシネマ】2020年に日本で公開された「プラド美術館 驚異のコレクション」

「プラド美術館 驚異のコレクション」(2019年 イタリア・スペイン合作)

神聖ローマ皇帝カール5世は、愛する絵画とともに旅をしてユステ修道院に辿り着いた。1558年に最期を迎えたときには、目の前に数年前にティツィアーノに描かせた巨大な絵画〈ラ・グロリア(栄光)〉があった――。そんな語りから始まる本作は、過去と現在を結ぶプラド美術館の姿を浮かび上がらせていく。

2019年に開館200周年を迎えたプラド美術館は、スペインの首都マドリードにある国立美術館だ。歴代の王や王女が心のおもむくままに気に入ったものを選んだという膨大なコレクション。それは栄光の象徴であると同時に、何世紀にもわたる美術の歴史を物語るものでもある。

プラド美術館が収蔵する絵画は、宮廷画家や君主が愛好した画家の傑作揃い。17世紀にフェリペ4世の寵愛を受けたディエゴ・ベラスケス、18世紀にカルロス4世に重用されたフランシスコ・デ・ゴヤをはじめ、16世紀のエル・グレコ、15世紀のヒエロニムス・ボス。数少ない女性画家の作品であるクララ・ペーテルズ〈静物画〉からは、17世紀当時の女性芸術家の立場を窺い知ることができるという。

「スペインでは、死は幕開けだ」スペインの死生観は、命ある間に不滅の足跡を残したいという欲につながるという。スペイン帝国の豪華なコレクションの理由までも紐解いていく内容は重厚そのものだ。

一方、作品を紹介するにあたっては、館長をはじめとする職員がそれぞれ1作ずつを選んで解説していくスタイルをとっており、親しみを感じさせてくれる。ティントレット〈弟子たちの足を洗うキリスト〉、クロード・ロランの風景画、ファン・デル・ウェイデン〈十字架降下〉、ゴヤ〈黒い絵〉……。日常的に作品に触れている専門家による個人的な選定理由や作品の見方が興味深い。

なかでも注目したいのは、やはりベラスケスの〈ラス・メニーナス〉だ。「もう少し詳しく聞きたい」というところで解説は終わってしまうのだが、作品への興味は深まるばかり。簡単には理解できない複雑な構造も、きっとスペインとプラド美術館の魅力なのだろう。

人の心の深淵までも映し出す、プラド美術館。スペインの歴史の中で脈々と息づいてきた、その存在に迫る映画になっている。