平安時代の名作絵巻の謎に迫る「鳥獣戯画のヒミツ」

京都・栂尾の高山寺に伝わる《鳥獣人物戯画》は、平安時代末期に描かれたとされるウサギ、カエル、サルなどを擬人化したユニークな絵巻だ。2021年2月に発刊された『鳥獣戯画のヒミツ』(淡交社)は、この超有名な絵巻の謎に迫る内容だ。

「カエルとウサギはなぜ相撲を取っている?」という疑問を前面に出しながら、読者にやさしいQ&A形式で解説、節ごとに夜噺を楽しむような構成にも心惹かれる。しかし、この可愛らしい印象が読み進めるとどんどん変化していく。

動物と月にまつわる昔話に和み、時には笑い、時には涙したと思ったら、お釈迦様の前世までも知ることになる展開。道草を存分に楽しみながら聞く夜噺は、後半に意外な展開を迎える。本書が謎だらけの絵巻に詰め寄るパワーは凄まじく、それはまるで知らないほうがよかったことにまで気づいてしまう名探偵のよう。途中からはミステリーかドキュメンタリーかと思われる展開に、一気に最後までページをめくってしまう。

やまと絵を代表する1作であり、漫画のルーツともいわれる《鳥獣人物戯画》は、展覧会が開催されれば大行列ができる超有名絵巻だ。名作と称されながらも、作者はもちろん内容までも謎だらけである絵巻は、題材としても魅力たっぷり。京都国立博物館特任研究員の著者が専門性をもって調査、発見、論考する内容から、作品に対する1つの論が生まれる過程までも楽しめる1冊となっている。