【アートな1冊】独自の魅力と視点の違い『フランス人がときめいた日本の美術館』

『フランス人がときめいた日本の美術館』(集英社 2016年)

日本にいるとわからない日本の特徴が、外国からはわかることがある。一見するとよくある美術館ガイドのようだが、ページをめくると、〝フランス人〟の〝美術史家〟の視点が新鮮に感じられるとともに、これが優れた読みものであることを実感する。
美術館を選んだ基準は、日本文化を知るのに最適な場所――。そんな視点をも堪能したい、美術館ガイドだ。

まず、日本の展示そして絵画や巻物は、文字と同じく右から左へ見ていくという指摘に、ハッとさせられる。そんなことは思ったこともなかったからだ。だが、すでに私は本書における「右・左」の違和感に気付いていた。おそらく翻訳本であること、また施設紹介であることから横書きの体裁となっているのだろうが、これは日本では縦書きのほうがしっくりくる、文章をじっくり読みたい本だ。

日本には優れた美術館や文化があるにもかかわらず、その情報を英語で入手するのは難しいのだという。だから自分で書こうと思った、という著者のスタンスが随所に光るのは、自ら足を運び、体験した内容であるからこそ。本書では、日本美術のバックボーンとなる宗教や茶道等の本質に触れ、作品を鑑賞する際の助けとすることを忘れない。その専門的でありながら、難しくならない指摘に唸る。
そして、これを日本人が読むと、端正かつ簡素にまとめられた文章から、近づきすぎて見えなくなってしまっていたものに、やっと焦点が合ったような気持ちになるから不思議だ。

数年前に話題となり、テレビ番組化までされたベストセラー。
なかなか美術館へと足を運ぶこともできなくなってしまった今だからこそ、手に取ってゆっくり読んでみたい。
再び心おきなく外出できるようになる日のために……。