【見逃しシネマ】2020年日本で公開された「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」

映画「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」(2018年  フィンランド)


2020年2月に日本で劇場公開された映画「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」。
フィンランドの首都ヘルシンキで、昔ながらのスタイルで店を営む老画商オラヴィ。ある日、連絡を取っていなかった娘から孫のオットーを職業体験のために預かってほしいという電話が入る。店を畳むことも考えていた彼はその話を断るのだが、その後、サインのない1枚の肖像画を目に留めることによって、祖父と孫との関係は変わっていく――。

映画を観ていると、小さな美術商を舞台に描かれるのは仕事の辛さばかりのように思える。しかし、そんな状況にあっても孫が祖父から学んだのは仕事の喜びや誇りだったことに気づかされる。描かずに描くその真実を知ったとき、心はじんわりとあたたかくなる。
一方、父が娘に伝えるのは、それとはまったく違った思いだ。疎遠だった時間を埋める2つの関係は、決してドラマティックではなく、どこまでも静かで、そのリアリティーこそが切ない。

1枚の肖像画、室内の描写、そして、さまざまな視点から見るフィンランドの風景。もの言わぬ存在が救いであるかのように胸に響く本作。

2020年に日本で劇場公開されたこの映画は、見逃した人も多いことだろう。約90分の作品だとは感じさせない充実の内容で、丁寧な描写が印象的でもある。おうち時間にゆっくり観たいアート系映画だ。


*************************
映画「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」
監督 クラウス・ハロ
公式サイト https://lastdeal-movie.com
*************************