【見逃しシネマ】カナダの画家モード・ルイスを描いた「しあわせの絵の具」

映画「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(2016年 カナダ・アイルランド)

花や自然、鳥や猫などの動物、そして、人。
モード・ルイス(Maud Lewis、1903年3月7日-1970年7月30日)の作品には、命が溢れている。色鮮やかな作品はどれもおおらかで、まるで作品に微笑みかけられているかのように、しあわせな気持ちになるから不思議だ。

フォークアートに分類される、彼女の作品。そこに描かれているのは、カナダの暮らしだ。
自然に囲まれた家では人が動物とともに生活し、船が停留する港には海鳥が舞う。春は花が溢れ、冬には雪に覆われる大地。素朴でありながらも、色彩の美しさが際立っている作品に魅せられる。

カナダの東側のノバスコシア州に生まれ、生涯そこに暮らした女性、モード。幼い頃からリウマチを持ち、両親とは死別。夫・エベレットと暮らした家は、現在、ノバスコシア美術館の館内に移築公開されている。その小さな家では、壁や窓はもちろん、薪ストーブ、木板、請求書の裏、クッキー缶までもが、彼女にとってキャンバスだった。

映画「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(原題「Maudie」2016年、カナダ、アイルランド)は、モード(サリー・ホーキンス)が叔母の家を飛び出し、エベレット(イーサン・ホーク)の住み込み家政婦として暮らし始めることから、物語が動き出す。

心あたたまる物語だが、彼女の現実は厳しい。決して楽ではない暮らしとカナダの自然の中、当初、家の片隅に描かれていた彼女の絵が、物語が進むごとに、家中に溢れ、やがて家の外側にまでも広がっていくのが印象的だ。それは、まるでしあわせが増えていくかのよう。

物語の終わりに辿りつき、なぜか思い出すのは、壁に描いたニワトリの絵について尋ねられた時に答えた「あの子の幸せだった頃を、絵に残そうと」というモードの言葉だった。
彼女が描いた絵とともに、日常というきらめきが、じんわり胸にしみてくる。