静謐の中に漂う気配  「ハマスホイとデンマーク絵画」東京都美術館

「ハマスホイとデンマーク絵画」2020.1.21~3.26【東京都美術館】
              

展覧会のタイトルは「ハマスホイとデンマーク絵画」。この副題のないシンプルなタイトルがすべてだ。この言葉に、テーマに誠実であるための構成は、まさに装飾を削ぎ落したデンマーク絵画のように洗練されている。

ハマスホイの名を題した展覧会でありながら、第3章までの展示には、ハマスホイの作品が登場しない。彼と同時代を過ごした作家や影響を受けた人物、デンマークの自然、人々の生活。それを丁寧に紡ぐかのように、第1章では19世紀前半のデンマーク絵画の「黄金期」を取り上げ、第2章では多くの芸術家が集ったデンマーク最北端の漁師町から生まれた「スケーイン派」が登場、第3章では国際化する新しい絵画が生まれる場としての「独立展」の存在に加え、家族の幸せな空間として描かれていた室内画が、空間そのものに重きを置くものへと変化していく様子を捉えている。

動物や人物のいる風景画、家族の日常を捉えた室内画。あえて主役とはしない小さく描いた命の体温が空間をじんわりと温めるように、決して強くない光の中にもささやかな幸福を感じるデンマーク絵画。その魅力を存分に味わったところで、鑑賞者は第4章の扉を開ける。

私たちは、これまでデンマーク絵画の魅力を堪能してきたからこそ、ハマスホイのその独特な感覚に気付くことができる。形状や構図の美しさの中に、漂うだけの気配。抑えられた色彩と精緻な構図によって描かれる作品の空間には、調度品が極端に少なく、時にはあるはずのドアノブを描かれないことも。

デンマークのコペンハーゲンに生まれたヴィルヘルム・ハマスホイ(1864―1916)は、1900年前後に活躍した画家。室内画で知られる彼の代表的な作品は、1898年に移り住んだ自宅の古い室内を描いたものだ。これらが、これまでの自然に対する室内ではなく、都市生活者の室内画であることを感じるのはなぜか。20世紀前半のモランディの静物画をも思い起こさせるのは、次代への胎動なのか。

日本で本格的に紹介されるのは初めてという19世紀デンマーク絵画ともに、ハマスホイの世界に深く触れる展覧会。静謐の美と、そこに漂う気配のやわらかさに、あなたもきっと魅せられる。

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東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
http://www.tobikan.jp
https://artexhibition.jp/denmark2020/
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〈巡回展〉
山口県立美術館 2020.4.7~6.7
https://www.yma-web.jp/