2つの専門美術館で展開する「青のある暮らし」戸栗美術館&太田記念美術館

「青のある暮らし 江戸を染める伊万里焼」2019.7.2~9.22【戸栗美術館】
「青のある暮らし――着物・器・雑貨」2019.7.2~7.28【太田記念美術館】


浅葱(あさぎ)、縹(はなだ)、濃藍(こいあい)など多くの種類がある、青。

ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、1890(明治23)年に横浜に上陸した時の様子を雑誌連載「知られぬ日本の面影」の1編「東洋の第一日目」にこう記した。

「まるで何もかも、小さな妖精の国のようだ。人も物もみんな小さく、風変わりで神秘的である。青い(blue)屋根の小さな家屋、青い(blue)のれんのかかった小さな店舗、その前で青い(blue)着物の小柄な売り子が微笑んでいる。(後略)」〔『新編日本の面影』 ラフカディオ・ハーン/池田雅之=訳 角川文庫 2000 〕

「Elfish everything seems ; for everything as well as everybody is small, and queer, and mysterious : the little houses under their blue roofs, the little shop-fronts hung with blue, and the smiling little people in their blue costumes.」〔『Glimpses of  Unfamiliar Japan』 Lafcadio Hearn チャールズ・イー・タトル出版 1996 〕


この「東洋の第一日目」には、着物やのれんはその多くが濃紺色(rich dark blue)で、店員の着物にはのれんと同じ美しい文字があしらわれていること。そして、従業員の法被の背中に、紺地(dark blue)に白く大きな文字をあしらうことで安物の衣装も手のかかった輝きをみせるとも記されている。

ギリシアのレフカダ(レフカス)島に生まれたハーンが、ヨーロッパ各国で生活を経てアメリカに渡り、通信記者として初めて日本に来た日。その第一印象として登場するのが、この日本の多彩な青ということになる。


日本の人々の暮らしに根差した「青」。
戸栗美術館と太田記念美術館の連携企画として、特別展「青のある暮らし」が始まった。藍染めが庶民に広まった江戸時代。生活の中で青は、着物、のれん、手ぬぐいはもちろん、器や化粧道具、文房具、植木鉢までも彩った。

戸栗美術館の「青のある暮らし 江戸を染める伊万里焼」は、伊万里焼を取り上げ、もとは紺色の染物を指す言葉だったという「染付」の変遷から、青にアプローチ。時代とともに変わる文様や技法についての解説は、陶磁器専門美術館ならではの充実の内容だ。文化財ではその道具の使い方が分からないこともよくあるが、そんな時にこそ江戸期の浮世絵のすばらしさを実感する。人々の生活の隅々まで描いた浮世絵には、道具が使われる様子がしっかりと描かれており、伊万里焼の展示の中に時折登場する浮世絵パネルが、理解を確かにしてくれる。

一方、太田記念美術館の「青のある暮らし――着物・器・雑貨」は、豊富な浮世絵の中に生活に馴染んだ青を見るとともに、浮世絵における青の変遷について触れている。濃淡の表現が難しい藍に対して、ベルリンブルー(プルシアンブルー、ベロ藍とも)の登場は画期的な出来事だったということを知る内容だ。

藍色ののれんがたなびく街中。
浅葱色の裃を身に着けた死絵。
藍染めの火消し半纏。
浮世絵の中には、
着物の模様から、部屋の隅に置かれた調度品にまで、さまざまな青が存在する。


日本に溢れていた藍色を「ジャパンブルー」と呼んだのは、明治維新から間もない1874(明治7)年に招聘外国人として来日したイギリス人のロバート・ウイリアム・アトキンソンだという。

2つの美術館の専門性を生かした、青の展覧会
ただ美しいだけではない、江戸の青の役割が面白い。

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太田記念美術館
東京都渋谷区神宮前1-10-10
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp
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戸栗美術館
東京都渋谷区松濤1-11-3
http://www.toguri-museum.or.jp
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