日本初公開のコレクション「印象派への旅 海運王の夢」

「印象派への旅 海運王の夢―バレル・コレクション―」2019.4.27~6.30【Bunkamura ザ・ミュージアム】/ 2019.8.7〜10.20【静岡市美術館】/ 2019.11.2〜2020.1.26【広島県立美術館】


モネの《印象、日の出》 への揶揄が名称のきっかけとなった印象派だが、もとは官展であるサロンとは一線を画す画家たちのグループ展にはじまる芸術運動だった。 印象派の絵画は、神話や宗教の場面を読み解くものではなく、視覚的に感じることができる。そして、そこには貴族や歴史上の人物ではなく、フランスの都市に暮らす一般市民が描かれている。

1874年の第1回印象派展に参加したのは、クロード・モネ(33歳)、ピエール=オーギュスト・ルノワール(33歳)、アルフレッド・シスレー(34歳)、カミーユ・ピサロ(43歳)、エドガー・ドガ(39歳)、ベルト・モリゾ(33歳)、ポール・セザンヌ(35歳)など。 ずらりと名を連ねているのは、のちの有名画家たちだ。印象派展に参加しているものの、ドガやカイユボット(第2回から参加)は、印象派ではなく都会的レアリストと分類されることもある。

“印象派への旅”のタイトルどおり、印象派とその前後の画家の作品に出合うことができる本展。巨匠ぞろいのバレル・コレクションに加えて、同じくスコットランドのグラスゴーにあるケルヴィングローヴ美術博物館からゴッホ、ルノワール、セザンヌ、クールベなどの作品が展示されていて、こちらも見どころの1つになっている。

珠玉の作品が並ぶ展示室の中でも、際立った存在感を放っているのが、ドガの初期作品である《リハーサル》。印象派といえば、外光のもとで光の移ろいを描いたモネやルノワールの作品がまず思い浮かぶが、古典を学びデッサンを重視していたドガは、アトリエでの制作にこだわり、印象派と呼ばれることを好まず写実主義だと主張していたとも。

エドガー・ドガ 《リハーサル》(1874年頃  バレルコレクション)


外光派の画家たちが自然の光に包まれた一瞬の煌きを描いたのに対して、ドガが描いたのは室内の場面を構成する人々の一瞬の動きだった。《リハーサル》の作品中では、1人1人の踊り子が彼女たちの時を過ごしている。なかには体の一部分しか登場していない人物もいて、その動きでさえもリアルに感じられるのが不思議だ。そして、この作品の中央に描かれているのは、なんと影。窓から差し込む光が、バレエを練習する女の子の動きを捉えて、床に映る。作品の真ん中にぽっかりと開いた空間。そこから生まれるゆるやかな時間の捉え方に魅せられる。
図録にある「『日時計のように、今何時頃かわかるような絵』(ドガ)には無関心だった」という言葉をあらためてかみしめたくなる作品だ。

“海運王”と称されたウイリアム・バレルがグラスゴー市に寄贈し「世界のいかなる都市に捧げられた中でも最大級の贈り物」とも言われたコレクション。バレルによる「国外に持ち出さないこと」という条件から、これまで英国を出たことのなかったバレル・コレクションが海を渡った。
ほとんどの作品が日本初公開という貴重な展覧会も、渋谷は6月末まで。今後は、静岡や広島で出合うことができる。


【冒頭の写真】
ウジェーヌ・ブーダン《トゥルーヴィルの海岸の皇后ウジェニー》(1863年  バレルコレクション)

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Bumkamura ザ・ミュージアム
東京都渋谷区道玄坂2-24-1
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/19_burrell/
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静岡市美術館
静岡県静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階
http://shizubi.jp
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広島県立美術館
広島県広島市中区上幟町2-22
https://www.hpam.jp
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