特別展「縄文 −1万年の美の鼓動」2018.7.3〜9.2【東京国立博物館】
映画『縄文にハマる人々』2018.7.7から順次全国公開
まずは「わかる」という意識を捨てる、それが縄文のスタンダード。
縄文の美は、オリジナリティーとは何かということを否応なしに私たちに突き付けてくるようだ。歴史の教科書でも当たり前のように登場する、縄文時代の火焔型土器や遮光器土偶。それがいかに独特な造形であるかというオリジナリティー意識も、世界の他の国や地域の土器などを目にすることで、はじめて知ることができるもの。「並べて、比較してみる」ということ。それは、とてもシンプルなことだけれど、想像以上に大きな気づきをもたらしてくれるのかもしれない。
この夏、東京国立博物館に大集結した“縄文の美”。これは東博で開催するにふさわしい、東博パワーを存分に発揮した展覧会になっている。「縄文 ―1万年の美の鼓動」展の展示室内で人々を圧倒しているのは、普段なら日本各地の博物館や資料室の“主役”として展示・保存されている資料たち。公式サイト上の「縄文ご当地ビデオレター」からは、その大切な宝物を送り出す人たちの様子が伝わってきて、なんだか愉快な気分になる。まるで高校野球のメッセージのような地元の選手(遺物)への深い愛と手作り感いっぱいの動画には、ほっこりしながらも、ちょっぴり感動してしまうかも。
本展のわかりやすい目玉に「史上初!縄文の国宝全6件集結!」とある。縄文国宝室が設けられ、1点ずつ全面ガラス張りのケースを使ってゆったりと展示しているので、じっくり観ることができそう。ただし「土偶 縄文のビーナス」と「土偶 仮面の女神」は7月31日からの登場なのでご注意を。国宝が制度化された当初、工芸的に優れたものを認定した傾向があったといい、縄文時代の遺物の国宝は少なめな印象だが、国宝以外にも素晴らしい縄文造形が次から次へと登場するのが本展だ。
どちらかというと「人と同じことを求める」日本の土から続々と出てきたのは、「同じであることをタブーとする」かのような造形物。それは実は、“美”であるかどうかもわからないけれど、地球上の他の国や地域のモノよりも明らかに、立体的で、躍動的で、生命力を感じさせ、その形が、死や命への強い想いを伝えているようでもある。これは、生きることの過酷さが見せた祈りの形なのだろうか。
一方、7月7日に公開された映画『縄文にハマる人々 ―世界で最も美しい謎』は、東京国立博物館の縄文展とは異なるアプローチで、縄文の世界に迫っている。様々な立場の人物へのインタビューを繋いで、ゆるく仕上げたドキュメンタリーなのかと思ったら、その予想はきっと覆されるだろう。“正解はない”ことに大真面目に取り組んだ軌跡が映し出され、辿り着くべき場所を持たないままに、観客の視点をアップデートしていく過程にハマる(かも)。
映画の中では、現代はわかりやすいものばかりであることが指摘される。モノには必ず用途があり、機能があり、それがわかりやすいことが大切なのだという価値観が、無意識の深いところに流れている現代社会。その無機質さへの確信は、縄文との共感を阻む要因でもあり、その反動が、人々の縄文への深い憧れを生み出すのかもしれない…なあ。
展覧会と映画で、縄文に出会う夏。本格的に夏が来た。
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東京国立博物館
東京都台東区上野公園13-9
http://www.tnm.jp
公式サイト http://jomon-kodo.jp
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映画『縄文にハマる人々』公式サイト
http://www.jomon-hamaru.com
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