栄華の記憶と過ごす日常。映画「グレート・ミュージアム ハプルグルグ家からの招待状」

美術品が時を超えてそこにあり、それを誰もが鑑賞できることは、決してあたりまえのことではない。そんなことをあらためて感じさせてくれるのが、映画「グレート・ミュージアム ハプルグルグ家からの招待状(原題「Das Grosse Museum」)」だ。

映画の舞台は「ウィーン美術史美術館」。フランツ・ヨーゼフ1世の命により造られ、1891年に開館したこの“グレート・ミュージアム”には、ハプルブルグ家が代々蒐集した膨大な芸術品が収められている。建物そのものが驚くほど美しく、クリムトの壁画があることでも有名な美術館。その館内や作品をはじめ、美術館の仕事の舞台裏を収録した本作は、大規模改修から2013年3月のリニューアルオープンまでを記録したドキュメンタリーとなっている。

1人の男性が床につるはしを下す場面が、映画の冒頭近くにある。貴重な建築物が壊される音は、館内に響き渡るとともに、観る者の胸に突き刺さるように響く。あれは、美術館が変化する、そのはじまりの“音”だったのかもしれない。

存在そのものが栄華の記憶のような美術館とそこで働く人々は、ハプスブルグ家の偉大さを肌身で感じながらも、未来へ、グローバル化へと、もがきながら生まれ変わっていく。彼らの日常を淡々と追う映像であるのに、その淡々とした中に秘めた情熱や時代を担う使命感をみる不思議。

劣化と戦うかのように収蔵品と向き合う作業。予算どりを交渉するリアルな姿。国内外からの集客を図るために名称やロゴを変える過程。厳しい予算でオークションに臨む様子など、そこにあったのは、栄華を極めた美術館の外見とはまったく異なる、現代的な舞台裏だった。

美術館に行けば貴重な芸術があり、それは数百年後もそこにある。そんな偉大なるあたりまえを守る彼らの日常に、ほんの少し触れることができたような気持ちにさせてくれる映画だ。

 

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映画『グレート・ミュージアム ハプルグルグ家からの招待状』公式サイト
http://thegreatmuseum.jp/
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