「日伊国交樹立150周年特別展 アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」2016.7.13-10.10【国立新美術館】

ヴェツィアの建国は、受胎告知の祭日である3月25日であると伝えられている。国立新美術館で開催されている「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展の作品たちに出会うことは、「受胎告知」の場面に格別な想いを持つヴェネツィア人の心に触れるかのようだ。
特別出品されているティツィアーノ・ヴェチェッリオ≪受胎告知≫は、高さ4メートルを超える大作で、ティツィアーノ晩年の傑作と言われている。天が開いて鳩が舞い降り、大天使が大胆に近づく様子に、聖母は驚いたようにベールを上げる。そんなドラマティックな場面が描かれている。今回、はるばる東京へとやってきた本作は、サン・サルヴァドール聖堂の右側の祭壇を飾っていたものだという。遠くから見たときには構図の完璧さや荘厳さを感じ、近づいたときには繊細な指の表情が見える。聖堂内を歩き、ふと立ち止まり、佇むようにして出会いたい作品が、これだ。額に入っておらず、横から見える木枠の古びた質感が、かえって時代性や現役の祭壇画であることを実感させてくれるかもしれない。
音声ガイドを利用していると、ティツィアーノの≪受胎告知≫の展示室では、聖堂の中の雰囲気までも感じながら、作品と出会う感覚を味わうことができる。音声ガイドは、ナビゲーターである石坂浩二さんが本展のために実際にこの場所を訪れて、目で見て感じた内容が語られ、聖堂の内部の飾られている様子までも伝えてくれる。また、ガイド機の小さい画面に動画を展開できるのも臨場感があっておもしろい。一方、公式テーマ曲は、辻井伸行さんがご自身がヴェネツィアを訪れた際の感覚をもとに制作していることが語られている。こちらは展覧会の後半で楽しむことができるのだが、そのやさしい響きに触れると、穏やかな気持ちとともに水面の輝きが目の前に広がるよう。これほど音声ガイドをおすすめしたくなる展覧会もなかなかない。
時代を追って展開される絵画には、ヴェネツィア・ルネサンスが、マニエリスム風やバロック期へ移行していくなど、当時の特徴が見受けられるとともに、鮮やかな色彩、大胆な構図、衣服のリアルな質感の表現、かしこまらない生き生きとした肖像画など、ヴェネツィア画派の存在感が感じられる。
これらの芸術は、ラグーナ(潟)の上に築かれ、運河が縦横に走り、橋で結ばれている稀有な都市・ヴェネツィアとともに存在し、その場所と作品は決して切り離せない。だからこそ、ヴェネツィアの街の雰囲気までも感じさせる展覧会内容になっているのだろうと感じる。今でも、乳母車と車椅子以外の車は禁止され、水とともに人々が生きる街・ヴェネツィア。現代のヴェネツィアを歩きながら作品に出会い、16世紀へと想いを馳せる旅。ヴェネツィア旅行をするように楽しみたい展覧会だ。
本展を訪れた後、『ヴェネツィア 美の都一千年』宮下規久朗著(岩波新書)を読んだ。開催に合わせるかのように発行された本書には、割引券付きのしおりが付いている。絵画を切り口にヴェネツィアを知ることができる本書は、ヴェネツィア旅行や「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠」展での空想旅行の素敵なガイドになってくれそうだ。
