金銀の系譜 〜 静嘉堂文庫美術館で、酒井抱一「波図屏風」に心ざわめく

「金銀の系譜 宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」2015.10.31- 12.23【静嘉堂文庫美術館】

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酒井抱一の作品を前にすると、精緻な筆使いとパーフェクトな余白に感嘆、そして、作品が放つ余韻に包まれては、いつもため息がこぼれた。全国で琳派展が開催された琳派400年のメモリアルイヤー2015年は、そんな1年だった。

光琳に私淑したばかりでなく、「琳派」の系譜を形成する上で、いわばコーディネーターの役割を果たした酒井抱一。江戸琳派の祖とも言われるが、もともと武家の出身であり、俳諧を嗜むなど多彩な面を持つことから、画業のみで語られることのない人物だ。だが、まずはそんなことは気にせずに、抱一の絵の前に立ってみてほしい。もともと狩野派に手ほどきを受けた江戸らしい端正な筆使い、俳諧を嗜む風流を表現した情緒、江戸生まれの武家ならではのどこかすっとした魅力。絵を前にすると俳句を読み終えた後の余韻のような、瀟洒な美的感覚に触れることができるはずだ。

そんな抱一の作品の中でも、おそらく異色の存在だと思われる「波図屏風」は、酒井抱一編『光琳百図』にも木版墨摺りの図版として収録されている尾形光琳筆「波涛図屏風」(メトロポリタン美術館所蔵)にインスピレーションを受けて描かれたという。六曲一双の大きな屏風、銀地に描かれた波は、荒々しいダイナミックな墨の筆使い。この空間にいると心がざわめくような、圧倒的な迫力に驚かされる。光琳の「金」に対して、抱一の「銀」。本展では、独自性を見出したことへの喜びに「自慢心」とまで書いたた抱一直筆の書簡も一緒に見ることができる。

いや、もちろん琳派といえば「金」だ。修復後初披露となる国宝の俵屋宗達「源氏物語関屋・澪標図屏風」。重要文化財の尾形光琳「住之江蒔絵硯箱」をはじめ、琳派を彩る華やかな名品がずらり。静嘉堂文庫美術館リニューアルオープン第1弾の本展では、ラウンジで贅沢にも国宝「曜変天目(稲葉天目)」、重要文化財「油滴天目」も展示されている。

世田谷の自然の豊かさを感じながら、本物の美に触れるゆったりとした時間。静嘉堂文庫ならではの上質なひとときを過ごすことができるのも魅力。

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