《連載》メトロポリタン美術館の日本美術❷ 葛飾北斎〈冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏〉

冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏
Under the Wave off Kanagawa, also known as The Great Wave, from the series Thirty-six Views of Mount Fuji ca.
葛飾北斎 Katsushika Hokusai  Japanese
江戸時代19世紀 1830–32

“息をのむような構図”。
The Great Waveとしても知られる〈冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏〉について、メトロポリタン美術館はこのように紹介するとともに、フランスの作曲家・ドビュッシーの「海~管弦楽のための3つの交響的素描」やドイツ語詩人・リルケの詩「山」に影響を与えた世界の芸術の象徴的な存在であることを伝えている。


酔うほどの緊迫感

神奈川沖の大波の向こうに見えるのは、まだ雪が残る富士山。三艘の押送船が波の中を進む、決して気を抜くことのできない一瞬。北斎の水の表現の中でも、まるでハイスピードカメラで捉えたかのようだと評される波。
これは、現在の東京湾上から見た風景を描いたもの。「25.7×37.9 cm」という決して大きくはない作品でありながら、世界を魅了する一作だ。

北斎が数え71歳から描き始め、永寿堂西村屋与八が刊行した大判錦絵シリーズ『冨嶽三十六景』。輸入されたベロ藍(プルシアンブルー)を使用したことで知られるが、青の表現はベロ藍とともに植物性の藍を使い分けて摺られたとされる。


摺りを楽しむ木版画

国内外のいくつもの美術館に所蔵されているが、それぞれに違った印象を残すのが、葛飾北斎の〈冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏〉。人気作品ということもあり、残された木版の状態からこれまでに5000枚以上は摺られていると考えられているが、現存するのは100点ほど。なかでも最も摺りがよいのがメトロポリタン美術館所蔵の作品だとも言われる。

日本国パスポートは、2020年2月以降に交付するものから「冨嶽三十六景」から24の図柄を採用した。全ページが異なるデザインになっているとのこと。
江戸時代には、美術品の緩衝材として海を渡った北斎。今度は、パスポートとして世界の空を飛ぶようだ。