「北斎漫画と冨嶽三十六景」2015.6.20~8.30【河口湖美術館】
そこにあるのは「北斎に描けないものは何もない」と思わせるほどの意欲。
絵手本であり、スケッチである「北斎漫画」は江戸時代の日本のみならず、海外の画家たちに大きな影響を与えた。ここに描かれているのは、「動物」「鳥」「草花」「市井の人々」「建物の屋根」「伝説の生き物」から「神仏」まで。森羅万象とは、まさにこのこと。
「相撲の技」の数々や「踊る人・働く人」の姿、「痩せた人・太った人」を描き分け、「農作業・砂糖作りの手順」をもスケッチしている本作では、人体を描くために接骨家にまで弟子入りした、北斎の探究心を目の当たりにする。また、編を重ねていくごとに、構図や背景が変化に富んでいく点も興味深い。有名な「水面」だけではなく、「風や雨」「神秘」までも表現する北斎。もはや当初のスケッチ集の域を超える作品には、感嘆。努力を努力とも思わない姿勢に、非凡さを感じずにはいられない。
本展で出会うことができる「北斎漫画」は、平成19年から20年にかけて行われた、全十五編の江戸伝承版木による再摺の作品だ。北斎が53歳の時に名古屋の門人宅で描いた300あまりの下絵は、2年後に名古屋の版元・永楽屋東四郎(東壁堂)から出版された。これがのちの初編。当時は1冊のみの出版予定だったという。
その後、意欲的に全十編を出版した江戸の角丸屋。角丸屋が版成した版木を譲り受け、北斎没後までかかって全十五編の刊行を続けた永楽屋。明治期に出版を行った東京の吉川弘文館。そして、明治から現在まで、北斎漫画の版木を所蔵する京都の芸艸堂。
〝版を持っている〟まさに「版元」の変遷とともに、名古屋、江戸、京都と譲り受けられ、天災や戦争にも会わずに残った版木は、摺を重ねた超ベストセラーのもの。彫り直され、補修された現在の姿。時代を超えたリアルがここにある。今後はもう不可能かもしれないという、再摺。当時の作業の過程は、当代の彫師、摺師がその技術を駆使して木版画を再現する映像で観ることができる。
一方、北斎70代の意欲作「冨嶽三十六景」は、全46点。保存の理由で、前期(6.20~7.20)と後期(7.22~8.30)に分けて、それぞれ23点ずつ観ることができるそう。「材木を投げる職人」「道に腰掛けて休む女性たち」「引き潮時に江ノ島へ向かう人」「風に傘を飛ばされる人」「塩田で働く人」「大井川を渡る人」…。これらはすべて、富士山とともにある人々の姿。
いつもある不動の存在「富士」の〝静〟と、今にも動き出しそうな「人物」たちや表情豊かに躍動する「水面」の〝動〟。この2つの画面における共存に気づいた時、あらためて感じるゾクゾク感。北斎漫画を観た後だからこそ、実感できる何かがある。


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山梨県南都留郡富士河口湖町河口3170
河口湖美術館
http://kgmuse.com


