熊谷守一美術館30周年展。どうしてこんなにもこの絵に感動してしまうのだろう

モリ0748

東京の住宅街に佇む「熊谷守一美術館」。ここは、守一が暮らした家の敷地に建てられた美術館だ。現在「熊谷守一美術館 30周年展」(2015.5.15~6.28)が開催されている。決して大きな建物ではないが、本展は、普段の常設展示室のみではなく、3階まで全館を使って開催されており、全国の美術館や個人のコレクションから寄せられた全100余点の熊谷守一の作品に出会うことができた。

自宅の庭で「雨滴」や「蟻」を眺める姿、「猫」や「尾長」に向けられたやさしい眼差し。これらの作品は、ここで描かれたのだ。そう思うと、歩いてきた道で出会った紫陽花やスズメまでも、守一の見た風景のように感じられた。

また、作品に添えられた、館長・次女の榧さんの解説が、なんともあたたかく、やさしい語り口が胸を打つ。父・守一を幼少時の愛称であるモリと呼び、家族ならではのエピソードが綴られ、描かれた情景が眼に浮かぶよう。こんな解説に出会えたことが嬉しい。

戦後すぐ、長女・萬を結核で亡くした時に描かれたという「仏前」や「ヤキバノカエリ」。いい作品は、売れてしまう。どんな形容詞も添え難い真の絵だから。「人がどのようにして絵を描くのか」それを思えば、絵が売れてしまうことは、画家にとって辛いことでもあるのだと知った。

抽象的に見えるほど、つきつめた具象画。そこに、たしかな情景が見える。どうしてこんなにもこの絵に感動してしまうのだろう。30周年記念だからこその特別展が素晴らしい。

モリ0466

Kaya Cafeのおいしいコーヒー
施設内のKaya Cafeでいただくおいしいコーヒー