洗練された素朴。河瀬ワールドの深度にじんわり 映画「あん」

 言葉にすると陳腐になってしまう。音楽では感動が過剰だ。その意味や高揚感だけが一人歩きしてしまうことを恐れる。「映像」という言語の可能性をあらためて思い知った作品だった。
「小豆が、これまでにいろんなものを見て、ここに来るように」
「桜が咲き、花びらが舞い、葉桜になり、人知れず紅葉するように」
「鳥が、飛び立ちたいと本能で願うように」
「風が、音を立てて木々をゆらすように」
「月が、静かに輝き、夜を照らすように」
「人が、生きて、死ぬように」
それぞれの目に映る日常を通して、映像は、世界共通の言語なのだということを感じさせてくれる。
この土地にある、目には見えないものをカタチとして生み出すのは、内なるものと、外なるものの、両方の視点。それは、新たなジャポニズムなのだろうか。
本作品には、ハンセン病の現実を知らせたいとか、日本の情景を切り取って描こうとか、社会的に主張する構えたところが感じられない。
実在する東村山市を舞台に、くすりと笑えて、ぽろりと泣けて、じんわり温まる。主演の樹木希林さんや、永瀬正敏さんの現実感がバランスよく効いている印象だ。3世代が寄り添うことでも、タテとヨコの軸を感じさせ。社会性よりも、もっと深い、普遍的なテーマで捉えているところが心地いい。
こんなに自然で素朴なのに、洗練されている不思議。
河瀬ワールドの深度に圧倒される。
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