“HOKUSAI”をアップデートせよ。「新・北斎展」森アーツセンターギャラリー

「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」2019.1.17〜3.24【森アーツセンターギャラリー】

世界で最も有名な浮世絵が、葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」だ。北斎の肉筆画はもちろん素晴らしいのだが、木版画で流通した錦絵は刷りや色によって、その印象が微妙に異なるものでもある。今回展示されている“Great Wave”を前にすると、そのベロ藍の色に心奪われる。北斎が一瞬へと挑む、まるで手の指が空(くう)を掴むかのような浪。「やはりこれが名作か」という思いを強くするとともに、木版画でなければ生まれなかった独特の水の表現が、北斎の浮世絵にはいくつもあることに気づく。

冨嶽三十六景が日本国パスポートのデザインとして採用される平成31(2019)年度を目前にして、「新・北斎展」は始まった。本展は、北斎研究の第一人者であった永田生慈氏が島根県立美術館に寄贈したコレクションを中心に、約480件もの作品で北斎の画業に触れる展覧会だ。もちろんすべてが葛飾北斎であり、その構成が“名前”によって区切られていることにも特徴がある。

30以上の画号を名乗り、90年の人生において93回の引っ越しをしたという北斎のエピソードは有名だ。だが今回、その改号には作風が大きく関わっていたことを知ることになる。本展の章として登場するのは、勝川派の絵師として活躍した【春朗期】(20~35歳頃)、すらりとした“宗理美人”を確立した【宗理期】(36~46歳頃)、実はたった5年程しか名乗っていなかった【葛飾北斎期】(46~50歳頃)、後進のために『北斎漫画』を手掛けた【戴斗期】(51~60歳頃)、代表作「冨嶽三十六景」を描いた【為一期】(61~74歳頃)、さらなる高みを目指し肉筆画に力を入れた【画狂老人卍期】(75~90歳頃)。

その絵師人生を辿るように展示室を歩くと、師である勝川春章が亡くなり「勝川春朗」から「叢春朗」へと改名した頃の作品である<初公開>「鎌倉勝景図巻」は、典型的な浮世絵からは一線を画した穏やかな風景になっており、二代目「俵屋宗理」を名乗っていた時の作品には、古典美を尊重する琳派の雰囲気が漂うなど、ジャンルを超えて画を学ぶ、向上心旺盛な壮年期の北斎の姿が見える。

アメリカ・シンシナティ美術館から里帰りした「向日葵図」(弘化4(1847)年)など、初公開作品も複数ある本展だが、1月30日から3月4日の間は、“阿吽”の一対の作品であることが永田氏によって確認された「雨中の虎図」(嘉永2(1849)年、 太田記念美術館)と「雲龍図」(嘉永2(1849)年、パリ・ギメ美術館)が登場するというのも楽しみだ。

本展のタイトルに「UPDATED」とある。新発見や初公開などによる北斎研究のアップデート。そして、嘉永2年、生涯の終わりに「天があと10年、いや5年でもいい。私に与えてくれたなら、本物の絵師になることができるのだが」と嘆いた北斎のあくなきアップデート人生。さらに、新元号が始まる2019年から再び現代の印刷物として世界へ出ていく北斎作品の“日本の顔”へのアップデートの意味もあるだろうか。

期間限定のミュージアムカフェ「THE SUN 茶寮 featuring 北斎」からは、近くに東京タワー、北斎が生まれた本所の向こうにスカイツリー、東京湾まで見渡すことができる。ここは、北斎の暮らした江戸なのだ。あの東京湾は、北斎が描いた神奈川沖につながっている。
この眺めを見たら、北斎はどんな構図でどんな画を描くのだろう。

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森アーツセンターギャラリー
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
https://hokusai2019.jp
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