人生で大切なこと。Bunkamura ザ・ミュージアムの「ニューヨークが生んだ伝説 ソール・ライター展」

「ニューヨークが生んだ伝説  ソール・ライター展」2017.4.29〜6.25【Bunkamura ザ・ミュージアム】

 

ぬかるんだ雪道や、雨に濡れた窓越しに見えたもの。そこに、ソール・ライターの見たニューヨークがある。

1950年代からファッション写真家として第一線で活躍しながらも、80年代になると商業写真から遠ざかったソール・ライター。様々な写真の仕事を手掛けていた間も、自身の暮らすイースト・ビレッジ界隈を55年間にわたって撮り続けた彼は、成功や名声を望まず、脚光を浴びることが苦手で、晩年までその作品を一切発表することがなかったという。

ソール・ライターの視線に触れ、その卓越した感覚に静かに圧倒されるBunkamura ザ・ミュージアムの「ニューヨークが生んだ伝説  ソール・ライター展」。展示室内はとても静かで、作品の前に佇み、作品との対話をするかのように鑑賞する人々の姿が印象に残った。目に見えるものと、その奥に隠れているもの――。足元を気にしながら雪道を歩く時の何とも言えない気持ちや、雨の中でパレードの群衆の1人になってしまった時の期待と忍耐が入り混じった心境など、ソール・ライターが捉える“街”と“そこで生きる人の日常”は、観る者の心情とリンクしているかのようだ。

83歳にして写真集を発表し、世界的に注目を集め、2013年に亡くなった写真家ソール・ライター。彼を題材にした映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」(イギリス 2012年)は、日本でも2016年に公開されている。「私は大した人間じゃない。映画にする価値なんてあるもんか」という自身の言葉で始まる、歳月が醸した独特の風情のドキュメンタリーで、彼自身の口から語られるのは、カメラのこと、カラー写真のこと、ユダヤ教の聖職者・ラビであった父のこと…。絵を描き、自宅周辺をカメラを持って歩く、そんな地味であたりまえの日常に、哲学的な言葉が散りばめられている。

追い求めるべきは、美しさや幸福ばかりではない。終盤の「本当の世界は、隠れたものとつながっている」という言葉にハッとし、このような言葉の端々に、ソール・ライターが人生でしたかったことを垣間見る思いがする映画だ。

日常から目をそらさないソール・ライターの作品に触れると、あるときは撮影者、あるときは被写体の心情に共感していることに気づく。特別なことの何もない場面の美しさに感嘆しながら、様々な角度で楽しむことができる展覧会は、日常で写真を撮る機会が多くなった今だからこそ、人々により深い共感を生み出しているのかもしれない。

******************
Bumkamura ザ・ミュージアム
東京都渋谷区道玄坂2-24-1
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_saulleiter/
******************

映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」公式サイト
http://saulleiter-movie.com/