手紙から見えてくる友情と20世紀。パナソニック 汐留ミュージアムの「マティスとルオー展」

「マティスとルオー展  ―手紙が明かす二人の秘密―」2017.1.14-3.26【パナソニック 汐留ミュージアム】

“色彩の魔術師”とも呼ばれ、色彩を再現の役割から解放したアンリ・マティス。そして、“20世紀最大の宗教画家”と謳われ、苦悩や愛、不条理などの人間の深遠なる精神を描き出したジョルジュ・ルオー。わき上がる感情や感覚を荒々しいタッチで表現する「フォーヴ」に分類される2人だが、題材や画風は対照的であり、2人ともが、20世紀を代表する画家だ。

パリ国立美術学校で出会い、同じ師ギュスターヴ・モローに学んだ2人は年齢も近く、まったく異なるものを描きながらも、互いに尊敬し合っていた。20世紀を代表する2人の画家の交流を、50年にわたって交わした手紙によって明らかにしているのが本展。

サロンへの作品の搬入日を確認したり、戦時中には品不足であった画材を送るなど、画家同士で支え合っていた様子が窺えるだけでなく、いち早く2人の個性と才能を見出した恩師への想いや、画商との深くも悩ましいかかわりに助言をしたり、芸術家の権利に対する講演を支持するなど、作品を観るだけではわからなかった、画家自身の姿が見えてくる手紙の数々。それは、彼らが生きた20世紀という厳しい時代をも映し出すものであった。

マティスの《ラ・フランス》(1939 ひろしま美術館)の女性は、誇り高く、そして、ゆったりと椅子に腰かけている。第二次世界大戦の始まった年に描かれた《ラ・フランス》は、ドイツ軍占領下の1940年、ルオーの《ジャンヌ・ダルク》とともに美術文芸雑誌『ヴェルヴ』フランス特集号に掲載された。フランスの自由と誇り、そして、癒し。苦しさの中で彼らが人々に伝えたかったものが見えてくる。

本展の図録は、新刊書籍『マティスとルオー 友情の手紙』(ジャクリーヌ・マンク編 後藤新治他訳 パナソニック 汐留ミュージアム監修 みすず書房)とセットで販売されている。めずらしいスタイルだが、マティスとルオーが交わした書簡が収録された本書は、2人の想像以上の交流と、時代を映し出す貴重な資料となっているとともに、この展覧会のために日本語への翻訳を行った汐留ミュージアムと翻訳者チームの熱意が感じられるものだ。展覧会を楽しみ、自宅に帰ってからもより深い理解をもたらしてくれる、貴重な展覧会となっている。

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パナソニック 汐留ミュージアム
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